「Ever wonder at what point you got to say “Fuck it”?When you got to stop living up here and start living down here?」
(なぁ、いつ夢にあきらめをつければいい?高望みを捨て、地に足をつけるのはいつだ?)
「It's 7:30 in the morning,dawg.」
(まだ、朝の7時半だぜ)
『8mile』中盤に出てくるワンシーン。
エミネム演じる主人公ラビットが友達に早朝仕事場まで送ってもらった時のやりとり。本編の中盤くらいに出てくる場面で、このときラビットは何もかもが巧くいかずにいた。恋人との破局。ラップのフリースタイルバトルでは緊張で一言も発せず仕舞い。住む所も無くして母親の所に出戻ることになり、男に依存して暮らす母親は息子より男優先。そして家賃滞納でトレーラーを追い出されそうになると息子に金銭の要求。幼い妹を守れるのは自分だけかもしれないという責任。自分の置かれている状況の変化と劣等感からこのまま夢を追い続けた先にあるものに不安を隠せずにいたころ。思わず口からこぼれ出たのは心の奥底を占領していた言葉。「誰でもいいから教えてくれ!俺はどうすればいい?」限界に達した心が出したSOS。
「おまえならやれる!」
「諦めたらそこで終わりだ!」
「もうそろそろ潮時だな」
答えはその場しのぎなら何でもあっただろうし、一緒に考えてやってもいいような気もする。だが返ってきたのは、
「まだ朝の7時半だぜ」
思わず笑ってしまった。そして、ラビットも同じように心で笑っていたんじゃないかな。別に不安が消えてしまった訳では無い。でも妙に納得させられる答えだった。別に答えが出る問いではないことは知っていたのだ。自分が諦めたところが夢の終点でまだ諦めたくないって事は自分が一番良く分かっているはずだから。でも不安でたまらない。それを一言で気分を変えてくれる魔法の言葉だと思った。長いストーリーのなかでこのシーンが一番記憶に残っている。もちろん終盤に出てくるフリースタイルバトルは圧巻だった。エミネムのかっこよさが全開に感じられるシーンだったが、それでもこの映画のbestシーンは渡せない。おかしなところに反応したものだと思う。ラビットの言葉よりも友人の言葉に感動すら覚えてしまった。そんなこと考えないやつだから出せた答えなのかは分からない。世界がみんな朝から堂々巡りな疑問に支配されてたら暗くてたまらない。こういうやつがいるからうちみたいなやつが救われる。世界が黒でも白でもないもので作られていることを実感した映画だった。